はじめまして。山喜建設株式会社、代表取締役社長の布目美智男と申します。
ホームページにお越し頂きましてありがとうございます。
私が山喜建設の社長になって20年が過ぎました。これまで多くのお客様の家づくりに携わらせて頂きましたことに心より感謝申し上げます。
おかげさまで、創業から60年、注文住宅やリフォーム等を合わせて2870棟以上の実績をつくることができました。
お客様から「どうして山喜さんは無垢材を使うの?」「自然素材じゃないとダメなの?」と聞かれることがあります。私がなぜ無垢材・自然素材にこだわるのかを、過去の経験に基づいた思いを元にお話しさせて頂きたいと思います。
少し長くなりますが、読んで頂けると嬉しく思います。
弊社は岐阜県下呂市で山仕事に励んでいた若き父親が、昭和の東京五輪開催を目前にひかえたころに一念発起して始めた木毛(もくめん)製造の会社で、数年で家まで作る会社へと成長し、飛騨の山で育った木を使った住宅がお客様から大変喜ばれたことで会社はどんどん大きくなりました。 幼いころから忙しくしている父親を見て育った私は、学校を卒業して木材問屋の会社へ就職しましたが、家業を継ぐのが自分の使命かのように父親の手伝いをするため退職し、父親の会社「山喜建設」で仕事をすることになりました。 当時は“本家普請”(ほんやふしん)と言われる大きな木造住宅を得意とし、1990年代には岐阜県でも名の通った工務店となり、無垢材にこだわった住宅を多く手掛けていました。しかし、父親から社長の座を譲り受けたころから岐阜の田舎でも核家族化が進行、本家普請はもちろん2世帯住宅の大きな住宅は次第に減り始めました。
山喜建設に入社した当時はお客様の8割以上が現金で家を建てていました。契約の時、お客様から「手付金です」と2000万円の現金を渡され、あたふたしたことを今でも思い出します。今ではウソのような話ですが住宅ローンを組む方がほとんどいませんでした。当時は住宅ローンの金利が8%くらいで、ローンより現金という考えが強かったのかもしれません。 バブル経済の崩壊以降金利は下がり放題、1999年にはとうとう“ゼロ金利政策”が導入されます。住宅ローン金利が低いことと借入れ基準が緩くなったこともあり、20代30代の若い世代が住宅購入者の中心世代となっていました。我社のお客様は40代50代が中心でデザイン的には“純和風“・・・若い世代からは興味を持ってもらえず、年頃になった娘からも「ダサい」の一言。 そこへローコスト住宅ブームが巻き起こります。“家賃で土地付きの家が建つ”こんなフレーズがテレビCMやチラシ、新聞広告で見ない日が無いくらい住宅市場はローコストへと突き進んで行きました。まさかあのキムタクがローコスト住宅のCM出演した時は「ローコストに負けてしまう」と内心そう思ったものです。 「我社もローコスト住宅にシフトしないといけないのかなぁ?」「無垢材でローコストは無理だしなぁ」無垢材の建具や家具を作る工場を持つ我社、無垢材を止めローコスト住宅と同じ建材メーカー品を使った住宅を作ることは、今までの家づくりに対するこだわりを手放すことになりかねないし、モノ作りに真摯に向き合って仕事をしてくれている社員にもしこのことを話したらどう感じるだろうか、今でも悩んでいたことを思い出します。
「そもそもなんで無垢材なんだろう?」我社は父親が木材業から始めた会社で自社で製材から加工、塗装の全てを行っていたので何をするにも無垢材が当たり前でした。無垢材に関する知識や見識は深く、語り出すと止まらないほどです。日本全国の住宅会社で、無垢材で内装部材から建具や家具を自社生産している企業は私の知る限り、我社以外にありません。例えあったとしても日本に数社ではないでしょうか。 私は当時、無垢材で作ることばかりを考えていて、無垢材の家に住まうお客様のことをあまり考えていなかったように思います。これではお客様に無垢の良さを分かってもらえないことに気づき、住まうお客様の立場から無垢材について考え直すことにしました。
そこでお客様に成り代わる気持ちで素直に無垢材のことを考え、一つ一つ書き出してみました。
(当時どのようなことを書いたのか正確には思い出せませんが、こんな感じだったと思います)
・無垢材のフローリングは合板と違い、梅雨時期もベタベタすることがない。
・冬は裸足でもひんやり冷たくなく温かみを感じる。
・建具や内装部材も全て無垢材だと新築特有の化学的な臭いが全くなく、木の良い香りに癒される。
・アレルギーに悩んでいる方が安心できるシックハウスとは無縁な人にやさしい素材。
次に無垢材はメンテナンスが大変という話を良く耳にするが、果たしてどうだろうか?
・傷や凹みは濡れティシュで水を含ませ温まったアイロンで抑えると蒸気で戻る。
・劣化してきても無垢材の表面をサンドペーパーで削ると新品になる。
・合板の建材メーカー品と違い100年先も同じものができる。
・無垢材は使い込むと風合いに深みが出て愛着が湧いてビンテージのジーンズのように“味”が出てくる。
などなど、無垢材は住まう側にとってメリットの塊のような素材であることを再認識しました。
さらに「無垢材以外の自然素材も同じ」ということに気づきました。漆喰は古くから使われている壁材で私が幼いころに住んでいた実家の壁も漆喰でしたから、ごく普通の自然素材としての認識でしたが、お客様から「漆喰塗の住宅に越してきて梅雨時期も比較的カラッとしている」「部屋干しもメッチャ乾く」「焼き肉をしても次の日臭いが残らない」「トイレの芳香剤は要らない」とお聞きし、漆喰の調湿効果と消臭効果に改めて驚かされました。更にメンテナンス面はどうかというと、漆喰は10年経っても変色しないので傷や汚れがついてもその部分だけ塗り直せば元通りになります。(ビニールクロスは変色するので傷の部分だけ補修すると色が違って目立ちます)漆喰は少し値がはるのでコストを抑えるためにビニールクロスを選びたいところですが、やはり健康を考えると避けたいです。そこで天然の紙でできた紙クロス(オガファーザー)は自然素材でありながらビニールクロスと同じコストで採用できます。調湿効果もあり汚れても塗装下地として壁紙の上から漆喰塗料を自分で塗ることができ、メンテナンス面でもビニールクロスより優れた素材です。 無垢材、自然素材のことを色々と考えた結果、家族が健康で暮らせる住まいには自然素材は不可欠で、長持ちすることや修復やメンテナンスが自分でできることからも住まう側にとって“お得な素材”ということに気づくことができました。
無垢材をはじめとする自然素材が住まい手に取ってお得な素材なことに気づくことで改めてその良さを認識でき、我社の目指す家づくりがようやく見えてきました。それは、ローコスト住宅ではなく、 将来のコストを考慮した「ロングライフ住宅」です。建材メーカーの床材や内装部材、建具は木に見えますが木ではありません。木目を印刷したシートを張ったもので傷がつくと直せません。数年経つと変色したりシートが捲れたりします。10年くらいすると廃盤となり同じものは手に入りません。ロングライフ住宅は自然素材を使いますので、100年後でも廃盤になることはありません。シート張りではないので捲れたりしません。もちろん手入れも補修も簡単にできます。建材メーカー品は作るコストは安く済みますが、将来起こりうるメンテナンスのコストは自然素材に比べ大きく掛かります。 お客様にとって自然素材の家は、長い目でみるとローコストなのではないでしょうか。長く使えて、人に優しい家、誇りをもって自然素材の良さを生かした家をつくり続けようと確信しました。
「自然素材の家を作ってるし自然に貢献できたら良いよな」との思いもありCO2削減できる住宅“低炭素住宅”に取り組みました。低炭素住宅とはその家が排出するCO2の量を計算して作る住宅で、CO2排出量を抑えるため断熱性能が最高レベルの住宅のことです。 国が定めるCO2排出量以下になるよう窓や壁からの熱損失量、給湯器や照明器具の消費電力量から断熱材の厚みや窓ガラスの性能を考慮して1棟ごとに計算し設計するのですが、この計算が非常に難しく手間も掛かり取り組む住宅会社が少ないのが現状です。なので「低炭素住宅でなくても良いのでは」と思ってしまいそうになりますが、CO2を抑えることは自然環境に良いだけでなく“光熱費削減”になり毎月の電気代が減るので住み手にとっても大きなメリットがあります。 また断熱性能が最高レベルですから夏涼しく冬暖かいので、住宅内での熱中症やヒートショック現象も回避できます。 低炭素住宅は政府が推奨していますので金利引き下げや各種減税など様々な優遇処置も受けられます。 大変手間のかかる低炭素住宅ではありますが、未来の自然環境、そしてお客様にとって快適でお得な低炭素住宅を多くのお客様に届けたいという思いから、我社では新築住宅の全てを低炭素住宅で建築することを決意しました。
若い世代からご年配の方にまで好まれるインテリアを探したどり着いたのが、カフェのような住まいでした。本屋さんでたまたま見た雑誌に“おうちカフェ”の記事があり、「これだ!」と思いました。「自分の家がカフェみたいで友人をお招きできたら素敵だなぁ・・・」娘はもちろん、おじさんの私でもそう思います。自然素材の優しい雰囲気は20代30代から50代を過ぎた世代からも好まれるスタイルで、特に女性にはとても人気があることが分かり、きっとこれなら喜んでいただける!と思い実際の家づくりに取り入れることにしました。
カフェのような住まいを実現するのに苦労したのはデザインと無垢材のカラーの統一でした。まず新しすぎず古臭すぎない無垢材の色を4種類決めました。内装材、家具、建具にはそれぞれに適した無垢材を使用します。種類の違う無垢材に同じ色の塗料を塗装しても同じ色にはなりません。その無垢材特有の色目があるので塗装後の発色が違うため同じ色にならないのです。そこでそれぞれの無垢材ごとに塗料の配合を決め4色の塗料レシピを作成しました。これが本当に大変な作業で我社はドイツ製の自然塗料を使用しており種類も限られる中での色の調合は困難を極めました。 その甲斐あって床材、建具、家具すべての色が統一された無垢材は壁、天井の漆喰の白色とのコントラストが美しく生活雑貨が入り混じっても落ち着きのある空間を創り出してくれました。 デザインは素材感を大切に、できるだけ素材そのものの良さを引き出すものとしました。レトロ感のある模様入りのガラスは海外から直接仕入れ、家具や建具の引手金物は真鍮製の特注品を採用、できるだけ既製品を使わず使い込むほど味わいを増す素材にこだわりました。洗面台はモザイクタイル貼りのオリジナル家具を標準化しキッチンもオリジナルで作成します。リビングのソファーとTV台、ダイニングセットのメインの家具は当社オリジナル家具を標準装備、建具ももちろん無垢材が標準です。 家具、建具、床材全てが無垢材で統一された内装はまさに“カフェのような住まい”となり、住み始めから数十年経っても古さを感じさせないスタイルであると思います。
普段はモノ作りに真摯に取り組む社員ですが、時折「手間がすごくかかる・・・」と言われることがあります。確かに使い勝手やデザインなどにこだわることで、とても面倒くさくて手間のかかることをお願いしています。社員が言うように同じものを作るなら早くて簡単なほうが安くできて利益もあがると思います。 しかし、いくら面倒くさくても無垢材を使うには手間を掛けることを惜しんではならないのです。その理由は、無垢材は人間と同じで一本一本の木ごとに体質や顔が違います。木の体質や顔というと変に思われたでしょうが、木の体質とは硬さや曲がり方、強度、脂分などで、顔とは色目や木目、塗装の乗り具合などです。その無垢材の体質と顔を見ながら使用する部位に合わせて、強度と仕上がりの美しさを考え無垢材を選定します。 これは「木取り」という作業になりますが、たくさんの無垢材の中から選び出しますので手間と時間が掛かります。木取りの手間を惜しんでしまうと強度や見た目の悪いものが出来上がってしまいます。このほかにも無垢材は手間を掛けることがたくさんあります。手間はコストになりますのでどの企業もできれば避けて通りたいことの一つです。しかし手間を掛けることで同じものでも長持ちするものができます。よく「あとひと手間」と言いますがまさにそのひと手間で大きく違います。私は社員達に面倒臭くて時間や手間が掛かることをあえて進んでやるようにお願いしています。ところがやり続けると慣れてきて意外と早く上手くできるようになるんです。そんな社員を心から偉いなぁと思います。
無垢材は山で育ち伐採された木を木材市場から仕入れ、製材し天日や乾燥機で十分乾燥させた後に加工することで品質の高い家具や建具、内装部材となります。工場で大量生産された素材と違い、とても手間暇の掛かる素材ではありますが、産地から直接仕入れますのでお値打ちに購入できる"地産地消"の素材です。この産地直送の仕入れを活かし良質な無垢材を自社工場にて加工することでコストの削減が実現できます。我社の工場は"高級なお寿司屋さん"のようにお客様からの注文が入ってから作るようにしていますので、売れ残りの在庫は一切ありません。全てお客様のオーダーに基づき製造しますので、家具の大きさやデザインなどはお客様のお好みに合わせられますから大変お客様から喜ばれます。我社にとっても余分なものを造ることは無いので、不良在庫などのコストを削減できるメリットがあります。 作り手の社員も毎回同じものばかりを造ることが無いので、作り甲斐があり職人としての技も磨かれるので手際も良くなり効率化が図れます。 無垢材は建材メーカー品と比べ割高ではありますが、無垢材の良さを最大限引き出し、耐久性とメンテナンス性による"生涯コスト"の比較で建材メーカー品よりもお値打ちにお届けできるよう「産地直送」「自社生産」でコスト削減に取り組んでいます。
無垢材の本当の良さに気づき、自然素材を使ったカフェのような住まいを手掛けるようになって娘からも「おしゃれ!」と言われ、娘の紹介で娘の同級生の家を建てさせてもらえるようにもなりました。 過去を振り返ってみても「どうせやるなら“このほうがいい”」という思いが常にあったと思います。コストは重要なので無視することはできませんが、将来のメンテナンス費用を考慮した上でどちらが良いかを考えます。 「多少高くても将来を考えたら素材はこれに」「多少手間でも作り方はこうしよう」さらには「もっとかっこよくしたい」「これが使いたい」と思うと海外から直接仕入れたり特注で頼んで作ってもらったりと「このほうがいい」と思ったことを全て行ってきました。それは“自分の家ならこうしたい”との思いから沸きあがったことで、手入れやメンテのこと、健康に暮らすこと、自然環境や経済的なこと、カフェのようなインテリアなど、その全ては私が思い描く“未来のための家づくり”だったということでした。 自分が建てたい家を、そして娘や孫に建ててやりたい家をこれからも追い求めていきたいと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございます。 我社は2019年11月で創業60年を迎えます。ここまで続けてこれたのはお世話になったお客様、支えてくれた社員のみなさん、大工さんや職人さんそして陰ながら応援してくれた家族の存在でした。感謝の気持ちとともに続けることの難しさを痛感しております。 父親が一人で創り育てた山喜建設を弟と二人で受け継いでいます。何とか二人で切り盛りしている現在、やはり父親にはかなわないと思います。最近、父親が私と同じ歳の時に何を思い何をしていたかを考えることがあります。父親は一人で闘っていたと思うと倍の苦労があったことと思います。「二人でも大変なのによくやっていたな」そう思うと次の代はどうなるのか心配になります。 私たち兄弟がやるべきことは“父親のようなたくましい後継者を育てる”“景気に左右されない強い会社になる”、そして何よりも大切なことは“いつの時代もお客様に喜ばれる家づくりをする”ことです。決してやさしい課題ではありませんが、社員のみなさん大工さん職人さんそして家族の力添えを頂きながら、お客様に喜ばれる住宅を一棟一棟丁寧に造り続けて参りたいと思います。